四月にベルイマン作品ほぼ常連のビビ・アンダショーンが亡くなりました。今回は、彼女に敬意を表し、非スウェーデン主演作品で私の好きな作品を紹介します。
彼女を知ったのは、勿論、ベルイマン作品「野いちご」でした。私がまた若いころでとてもいい作品でしたが、この手の映画はちょっと辛いよねというのが本音でした。暫くすると、ご多分に漏れず、ハリウッドにやってきました。そりゃ、映画人であれば、一度はハリウッドで映画を作りたい、映画に出てみたいと考えるものです。実現はしませんでしたが、エイゼンシュタインでさえ、ハリウッドで映画を撮ろうとしたぐらいですから。
彼女のハリウッドデビューはジョン・ヒューストン監督「クレムリンレター」。ジョン・ヒューストンといえば、その頃はかっての栄光はないもののそりゃ巨匠です。
その昔、「マルタの鷹」「アスファルトジャングル」「キーラ・ゴー」「黄金」「白鯨」「許されざる者」と色々な傑作があります。この作品も良く出来た佳作といっていいでしょう。あのフィルムノワールの巨匠ジャン=ピェール・メルビィル監督があるインタビューでこの作品のことを「お見事」と評しているぐらいです。
ただ、この映画作品としては良かったのですが当たらなかった。それでなかなか見ることが出来なかった。昔から見たい作品でしたが、上映されませんでした。見ることが出来たのは、少し前にWOWOWで放映されたからでそれまではカルト映画という位置づけですが、最近はネットで簡単に見ることが出来るようになりました。今回もこの記事を書くにあたり、ネットでもう一度見直しました。
映画はエスピオナージフィルムですが、まず主演者が素晴らしい。ビビに始まり、マックス・フォン・シドー、オーソン・ウェルズ、リチャード・ブーン、パトリック・オニール、バーバラ・パーキンス、ヒチコック宜しくジョン・ヒューストンまでが脇で出てきます。若い人にはちょっとわからないと思いますが、これだけ集めるだけでも大変だったと思います。スタイルは007のようなアクションは少なく、プロット、人物描写中心でちょっとこういうスタイルに慣れていないと退屈するかもしれません。又ちょっと古い映画なので時々その演出スタイルの古さが鼻につくかもしれませんが見ごたえは十分です。
この映画、公開された当時、赤狩りでいたぶられたヒューストン監督の思いが出ているとか、ビビよりバーバラの方が良いとか色々と言われました。ヒューストン監督の赤狩りの思いはそうかもしれませんが、今回ビビをもう一度見直しますと、そりゃベルイマンに鍛えられたビビの演技はとても良く、バーバラよりもはるかに素晴らしい。映画は不幸にしてカルトになってしまいましたが、今ではネットで簡単にご覧になれます。ご興味のある人はご覧ください。
ビビは、その後「サンチャゴに雨が降る」「エアポート80」「バベツトの晩餐会」等色々な映画に出ますが、この中では「バベットの晩餐会」がお薦めです。
彼女がハリウッドにやって来た時、ハリウッドには巨匠と呼ばれる監督がかなりいました。ヒューストンもその一人ですが、ベルイマン作品のキャリアを知る人には、ちょっと物足りません。やはりフレッド・ジンネマン、ウィリアム・ワイラー、アルフレッド・ヒチコック、デビッド・リーン、欧州にはビスコンティ、フェリーニ、ベルトリッチ、ルイ・マル、トリフォー等健在で、彼らの作品に出ていたらなあとため息交じりに思います。
個人的には、彼女の演技と親和性が高い監督はウディ・アレンとかフランスのジャック・リベットかなと思いますが、その逆のサム・ペキンパーあたりもあるのかなとも思っています。「キラーエリート」辺りに出て、ウジーマシンガンを連射して、襲いかかる忍者軍団をなぎ倒すのもありでしょう。
今頃、天国でベルイマン監督とビビが楽しそうに語り合っていることでしょう。 合掌
八点鍾