レタントンローヤル館

主にサスペンス映画のお話

番外編「ディーバ」ちょっと不思議なフランス製サスペンススリラー

レタントンローヤル館にお出で頂き有難うございます。今回はちょっと変わったサスペンススリラー「ディーバ」を紹介します。

70年代後半の日本に輸入されるフランス映画は、本当につまらなかった。あの映画のおかげでその手の映画ばかりで、それはそれでいいんですが、つまらなかった。あれって、ソフトコアポルノ「エマニエル夫人」ですよ。

悪い映画じゃないので否定はしませんが、なまじ当たってしまったのでそういうタイプの映画が入るようになってきて、本筋である映画、フィルムノワール、ラブロマンスものが少なくなってしまいました。ラブロの「相続人」「危険を買う男」、ベルヌィユの「追悼のメロディ」、ルルーシュ「夢追い」ぐらいかな・・・この「ディーバ」が上映されるまで待つことになるのでした。

さてJ・J・ベネックス監督の不思議なミステリーは、巻頭すぐにかなり低予算の映画だということが分かりますが、そこはうまくカメラワーク、編集、小道具で切り抜けていきます。私も初めてこの映画でラグナのオーディオ、『La Wally』の素晴しさを知りました。変なオヤジ、ゴロディッシュの性格描写もなかなかナイスだし、ソプラノ歌手シンシア・ホーキンスと夜のパリを散歩するシーンも美しい。二人の殺し屋、一人はパンク風、の扱いも上手い。

そして、ジュールが殺し屋たちに襲われて、ゴロディッシュに助け出され、月夜の深緑の森に佇むシトロエン11CVが登場すると一段と映画は輝き始める。このシーンは本当に驚かされる。

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ディーバ

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シトロエン11CV

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ディーバ シンシア・ホーキンス

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11CV

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又、一番の悪に11CVの魅力を説明するセリフがまた好い。

シトロエンはトランクションアバン、前輪駆動車なのだ。セルフセンタリングのステアリングを軽く手で押さえ、独特な油圧サスペンション、エンジンは魅力的ではないがどこまでも疾走していく。その乗り心地は素晴らしく、例えばBMWの魅力がエンジン、メルセデスの魅力がシャーシとすれば、シトロエンはサスペンションだ。夕日の沈む地平線に向かって、軽くステアリングに手を添えて、そのサスペンションの優雅さを味わうことが出来るのはシトロエンだけ。この映画は途中から観客にそんなことを感じさせる。こんな映画は他にはない。美しい映画である。それは、フランス映画が持つ不思議な魅力だ。(映画に登場する11CVには、油圧サスペンションは付いていません。ここではかってBX、エクザンティアを所有していた時の感動を綴りした)  

                                    八点鍾

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