レタントンローヤル館(八重垣)にお出で頂き有難うございます。今日ご紹介する映画は「誰よりも狙われた男」(2014)です。
エスピオナージ小説のマエストロ ジョン・ル・カレ第21作同名小説の映画化です。最近、この映画を見直し驚いたことがあります。鑑賞したDVDには、メイキングが付いており、ル・カレ本人がこの映画のテーマは特例拘置引き渡し(Extraordinary Rendition)だと話しているのです。驚きました。小説ではどうだったのかかなり前に読んだので覚えていませんが。
特例拘置引き渡しとは、第三国からグアンタナモまで超法規的措置で容疑者を移送することで、そこでは「強化尋問テクニック」と呼ばれた拷問が行われていました。映画「ゼロ・ダーク・サーティ」をご覧になった方は分かると思います。
但し、この辺りのことを知らないと映画の位置づけが間違えてしまうと。今回、特例拘置引き渡しのフィルターを通して、この映画を鑑賞すると、ちょっとこの作品ズレているような気がします。
映画は、ハンブルグで対テロ対策チーム率いているバッハマン(フィリップ・シーモア・ホフマン)の活躍を描いたもので、まず、このチームが立ち位置が良いですね。
CIA高官を前に、
「我々は存在しない。それの活動が現在のドイツ憲法に抵触するので・・・」ってね。
彼らは、ハンブルグ在住のイスラム指導者アブドゥラ博士をウォッチしており、イッサというチチェン人のイスラム過激派がアブドゥラに接触する目的を探ろうとしている。
加えて、イッサの父が残したブラックマネー、それを預かっている銀行家トミー・ブルー、イッサを助ける人権派弁護士アナベル等色々絡み合い、物語は進んでいくが・・・
一番の問題は、アブドゥラを罠に掛ける前にCIA、ドイツ情報局、バッハマンが集まり今後の方針を打ち合わせます。
CIAのマーサ(ロビン・ライト)が、情報源としてアブドゥラを使用する目的はと尋ねます。
「世界を更に安全するためだよ」とバッハマンは答えますが、マーサの顔は曇ります。同様にドイツ情報部高官の顔も曇ったように見えます。
情報部の腕利きバッハマンなら、ここで米国が特例拘置引き渡しを準備するだろうなと感づかないと。このバッハマン以前もベイルートで米国側圧力で情報網を潰されたと言っているぐらいなので。バッハマンの部下イリナも何か知っているようで・・・
映画は、ほぼ原作通りなので問題は小説かもしれませんが、この辺りをもう少し上手くさばいてくれれば、さらにこの今日的なテーマがもっと生きた作品になったものだと思います。監督はアントン・コルベイン。
ずっとル・カレの作品を読んでいますが、ソビエト崩壊を境にただのスパイ小説家ではなく、例えばアフリカでの医薬品認証問題、パレスチナ問題、国際的なテロ、ソビエト崩壊後のマネーロンダリング等今日的な問題を取り上げるジャーナリステック作品が多くなってきていますが、近年は「スパイたちの遺産」で再びエスピオナージの世界に。
そうそう、最近「スパイはいまも謀略の地に」が上梓されたので購入しないと。
バッハマンは今回の失敗で干されるでしょう。そして、首になり失業する。そこにテロ組織の男がすり寄って来て、彼はかってのリーマスのようにテロ組織に潜入して・・・
勝手なこと書いてすいません。 八点鍾
追記 日本政府もファイブアイ(米国を中心とした安全保障関係の情報ネットワーク)に参加したいのであれば、現状での法令の改革が必要だと思いますが。
又は、この映画のバッハマンのような組織を作って欲しい。我々は憲法上の制約から存在しない・・・なんてね。