レタントンローヤル館(八重垣)にお出で頂き有難うございます。今日ご紹介する映画は「いぬ」(1963)です。原題 Le Doulos "デュラス"とは、帽子のこと、但し隠語で、警察への密告者のことを言うそうです。
この作品は、当ブログでも紹介している J=ピェール・メルヴィル監督(「仁義」「海の沈黙」「サムライ」)長編第七作になります。
メルヴィル曰く、
私はルキノ・ヴイスコンティの社交界ドラマをまったく信じていないんだよ。悲劇がタキシードとかレースの胸飾りに甘んじている。悲劇はひどく品位を落としたのさ。
悲劇とは、ギャングの世界で、あるいは戦争といった特殊な時代に遭遇する、完全に準備された死なんだ。
映画は、ピエール・ルスーの原作を映画化したもので、ギャングのモーリス(セルジュ・レジアニ)の猜疑心から引き起こされる悲劇を描いた作品で、モーリスは、出所後、妻の復讐の為、宝石仲買人を殺す。そして、ダチのシリアン( J=P・ベルモンド)から金庫破りの道具を借りると、仲間と仕事に向かうがタレコミがあり、警察に包囲されてしまう。
モーリスは仲間と逃げるが、サリニャリ警部に撃たれ仲間は死に、警部は倒すがモーリスも手傷を追うが、誰かに助けられる。モーリスはシリアンがタレコミをしたと思い、彼を捜しに街に出たところ、警察に宝石仲買人殺しの容疑で逮捕される。
シリアンはクラン警視の殺された警部と宝石仲買人殺しの件で執拗な尋問を受ける。
モーリスはシリアンが警察のいぬだと確信し、ある男にシリアン殺害の依頼をする。が、シリアンはモーリスを助けるため、一芝居を打ち、彼を留置場から出すことに成功するのだが、シリアンに殺し屋の魔の手が・・・
大変良く出来た暗黒映画(フィルムノワール)の古典です。彼は前述したように、普通のギャング映画ではなく、悲劇として、完全に準備された死を描くため、暗黒物(ミリュー)を題材としていたようです。
又、もはや伝説と化したシリアンとクラン警視との丁々発止のロングテイク、九分三十八秒のシーン等、この手の映画好きには、感涙ものと言って良いでしょう。このテイクは15回も繰り返したとメルヴィル自身が話しています。但し、15回目は14回目の補足として撮り上げたと。
もう一つ、この作品の助監督は、フォルカー・シエーンドルフ(「ブリキの太鼓」)が務めていることです。
ここにメルヴィルについて引用されていることは「サムライ ジャン=ピェール・メルヴィルの映画人生 ルイ・ノゲイラ著 井上真希訳」から引用させてもらいました。メルヴィル作品が好きな人は、この本を持っていると更に勉強になるのではと思います。
このブログ作成にDVD版を鑑賞しています。 八点鍾