レタントンローヤル館

主にサスペンス映画のお話

「サクリファイス」核戦争を描いたタルコフスキー監督の遺作ですが…

レタントンローヤル館(八重垣)にお出で頂き有難うございます。今日ご紹介する映画は「サクリファイス」(1986)です。

スウェーデン、ゴトランド島でひっそりと暮らしているアレクサンドル一家。美しい景観に囲まれた処で、その日はアレクサンドルの誕生日。彼は息子と一緒に松の木を植えた。家族は余り仲がいいようではなかったが、やがて核戦争が勃発する。TV放送は途絶え、アレクサンドルは神に祈り始めるのだが…

この手の映画は、その昔スタンリー・クレーマー監督「渚にて」が有名ですが、アンドレイ・タルコフスキー監督は全く別のアプローチで、核戦争の恐怖を描いています。

でも、製作された当時ソ連は経済的に困窮しており、米国がSDI計画で揺さぶりをかけ右往左往していたソ連はやがて崩壊しました。

他にフランスの人口統計学者エマニュエル・トッド、日本ではテレビ放送であのロッキード裁判を揶揄した小室直樹氏がソ連邦崩壊を予言しており、そんな中でのこの作品、当時は何かピンときませんでしたが、ウクライナ侵攻での戦術核で威嚇しながらでの現在、いやなかなか今日的な映画だなと再認識した次第です。

「ロシアを決して信用するな」とタルコフスキー監督からのメッセージが濃密にスクリーンから漂ってきます。その通りなのでしょう。私は良く知りませんが、ソ連時代に色々な事があったのでしょう。

この映画は一般の観客には馴染みません。観客を選ぶ映画です。でも、好きな人にはもう堪らない映画でしょう。「映像の詩人」と言われたタルコフスキー監督、長回し、独特のズーム撮影、特殊な銀残しのようなモノクローム撮影、独特な構図、スローなテンポ、ハリウッド映画とは真逆な映画です。でも、堪らない人には堪らない作品だと思います。核戦争勃発前後は珍しくサスペンスタッチで…うーん、美しいです。

個人的には「ストーカー」と「鏡」が好きですが。この様なタイプの映画監督は、もう出て来ることはないと思います。

このブログ作成にBD版を鑑賞しています。         八点鍾

 

追記 撮影を担当したスヴェン・ニクヴィスト(「叫びとささやき」「ファニーとアレクサンデル」)は大変だったと思います。

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