レタントンローヤル館

主にサスペンス映画のお話

番外編 スピルバーグ+ストリーブ「ペンタゴン・ペーパーズ」

 レタントンローヤル館にようこそお出で頂き有難うございます。本日もまた番外編として一本の映画を紹介します。なかなかここホーチミンではサスペンス映画が上映されないので。現在、ホーチミンにいるのでたまにはこのようなタイプの映画もいいだろうと思い「ペンタゴン・ペーパーズ」を紹介します。

 この映画で描かれているマクマナラ国防長官を見て驚いたことは、ごく普通の常識人として描かれている。メディアでは「ドミノ理論」を信奉するコテコテのストレンジラブ博(キューブリックが描いたあの人です)の如く言われている場合が多かったが、この映画では違う。特に、ワシントン・ポストの社主キャサリンと国防長官マクマナラの友情物語になっている。勿論、その立場における責任、葛藤は色々描かれていますが。

 スピルバーグ監督は優しいんだ。例えば、70年代に作られたコスタ・ガブラスの政治映画とは別の味わいになっている。どちらが好ましい?と尋ねられたら私は間違いなくこちらですね。だって、ガブラス作品は時に厳しく、徹底的に暴き出す。見ていて辛い時があります。彼も今は時を重ねたから、もし今同じ材料で映画を作れば、もっと優しくなることでしょうが。

 スピルバーグは自分向きの題材ではないので、出来るだけ優しく友情物語として描いた。別の人が描いたのなら、当然ながらもう少し厳しい味わいになっていただろう。でも、あえてそう描いたこの映画がいい。とても含蓄があり、色々考えさせる映画になっている。そして、いまここホーチミンでは、かってそのような内戦がなかったような繁栄に沸いている。皆がホンダバイクに乗り、ポルシェSUVがドンコイ通りを走り抜ける。そこにはマジェスティクホテルがあり、その昔、開高健がサイゴン陥落記事を書いていた…

 彼のテンポの良い演出、いつもながら上手いストリープの演技、そしてペンタゴン・ペーハーをコピーするコピー室には「明日に向かって撃て」「ブロブ」「ジョアンナ」のポスター。やはり、スピルバーグは細かいところまで手を抜いていません。もし、あなたがもっとアクションをお望みなら、まったく同じといいませんが同様のテーマを扱っているオルドリッチ作品「合衆国最後の日」をお薦めします。      八点鍾

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ペンタゴン・ペーパーズ