レタントンローヤル館(八重垣)にお出で頂き有難うございます。今日ご紹介する映画は「寒い国から帰ってきたスパイ」(1965)です。
映画は東ドイツのダブルエージェント、リーメックが西ベルリンのチェックポイントに現れ、別人を装い西ベルリンに入国しようとして発覚、射殺されるところから始まります。ベルリン現地責任者のリーマス(リチャード・バートン)は英国に戻り、閑職に追いやられ情報局を去ります。地方の図書館に職を見つけ、そこのナンシー(クレア・ブルーム)と仲良くなります。
やがて、ある男(マイケル・ホーダーン)が現れ、色々と便宜を図ってくれる。ある時、ピーターズと言う男に会い、オランダに渡りベルリン時代のことを色々と尋ねられる。
リーマスは、リーメックが東ドイツ情報部シュタージのムントに殺されたことを知っていたので、彼をハメるためにムントの部下フィードラーに接触するために、失職を装い敵の工作員が接触してくるのを待っていた。
そして、ムントを貶めるため東ベルリンに向かい、諮問委員会に出席すると、証人としてナンシーがその部屋に入ってくるのだった・・・
今回、数十年ぶりに鑑賞し、色々と思うことがありました。映画は、ジョン・ル・カレの同名の小説を本当に丁寧に映画化しています。脚色はサスペンス映画が得意なポール・デーンが担当しています。
正直言って、この映画化は退屈だと思います。その退屈さは、原作に起因するものと思います。又、「ハッド」「太陽の中の対決」で素晴らしい演出力を見せたマーティン・リット監督の個性もこの映画化にプラスになっていないと思います。
この小説が物凄く好きな方は、この原作に忠実な映画化を高く評価するでしょうが、映画として見ると退屈です。映画化に辺り、何か映画的魅力を醸し出す仕掛けが必要だと思います。でも、間違えないでください。映画は大変良く出来ています。
例えば、原作に忠実な映画化としてジンネマン監督「ジャッカルの日」という映画があります。でも、この作品、ラストパリ解放記念日のパレードシーンは、若き日にロバート・フラハテイに学んだドギュメンタリタッチで原作にはない魅力を追加していますし、メルヴィル監督「影の軍隊」も原作に忠実な映画化ですが、フィルムノワール映画で学んだ独特の映像美で、映画的魅力を加えています。
ここでは、オズワルド・モリスによる艶のあるモノクローム映像は、どんよりと曇った社会派映画によくある重い映像、それはそれで素晴らしいですが。
このブログ作成にBD版を鑑賞しています。画質は大変素晴らしい。 八点鍾
追記 数年前、ル・カレが「スパイたちの遺産」と言う作品を上梓しました。この作品の続編です。いずれ映画化されるものと思います。