レタントンローヤル館

主にサスペンス映画のお話

「怪物」サスペンス映画かなと思ったらミヒャエル・ハネケ風不条理スリラー…

レタントンローヤル館(八重垣)にお出で頂き有難うございます。今日ご紹介する映画は「怪物」(2023)です。

映画は、夜、諏訪市のマンションのベランダで近くの雑居ビルが燃えているシーンから始まります。母と息子がそれを眺めていて何やら会話をしています。

とても好いシーンで冒頭から引き込まれました。ローレンス・カスダン監督「白いドレスの女」ととても良く似ていて、これは保険金詐欺のノワールスリラーなのかなと思いましたが、日本のエース監督是枝氏はノワールスリラーには全く興味がなくて、ミヒャエル・ハネケ風不条理スリラーを監督したかったのだと映画を見終えて判りました。

「怪物」と言うタイトル、「羅生門」とか近作では「最後の決闘裁判」のように視点を変えて製作されたこの映画、母親の視点、担任教師の視点、子供達の視点で描かれるこの映画、前半はサスペンスタッチで少しずつ真実が燻し出される当たり結構面白いのですが…

特に学校関係者の描写はかなり辛辣で、日本教職員組合辺りがクレームを付けたくなるのではと思いましたが。教育者とは程遠く、平々凡々と定年まで波風を立たせずに退職金を得たいと俗人のように描かれており欧州の方がこの映画を見たら、日本の現状を知らないので不条理ドラマのアイテムとしてこの学校を捕らえるでしょうね。

勿論、クレーマーとして登場する母を演じる安藤サクラもヤーサン顔負けでとても巧いと思いました。そういう意味では前半はとても良く出来ていると思います。でも、学校に行く前に自分の子供にもっと聞くのが良いのではと私は思いますが。まあ、映画ですらどうでも言いことですが。

登場する人々が感じることがすべて「怪物」なのでしょう。母親の学校に対する不信、教師から見て色々と言ってくる母親への不信、新たに配属されたのにちょっとしたことで子供の母親からのクレームに対して自分の意見を言わさない学校側への不信、子供から母親父親に対する不信、それらは巧く纏めていました。この手の映画は好きではありませんが、映画はとても良く出来ていると思います。

この手の映画であれば、冒頭の火事のシーンも盛り過ぎですね。もっと安く表現しても良かったようにも思いますが。興味を持たれた方は、ぜひ鑑賞して下さい。

最後に、6月末の金曜日に鑑賞しましたが観客は50代以上の方が多く、劇場の入りは半分ぐらいでした。ヒットしているように感じました。          八点鐘

 

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