レタントンローヤル館(八重垣)にお出で頂き有難うございます。今日ご紹介する映画は「影の軍隊」(1969)です。
ドイツ占領下のフランスレジスタンス活動を描いたジャン=ピエール・メルヴィル監督のこの作品は、古典的な名作又はもはや教養映画と言った方が良いかもしれません。
彼はこの作品の前に、「海の沈黙」「モラン神父」を映画化しており、彼が戦時中を題材にした映画はこの作品が最後になります。ジョセフ・ケッセルが1943年に発表した同名小説を映画化しており、違いは冒頭のドイツ国防軍がシャンゼリゼを行進するシーン、リュックとフランソワ(リュックの弟)の関係を曖昧にしていること、ラストの悲劇的な字幕(原作では主人公は死なない)だけで、後はほぼ忠実に映画化しています。
映画は、ヴィシー政権が管理する収容所に収監されたジェルビエ(リノ・ヴァンチュラ)は、パリのドイツ軍司令部があるマジェスティックホテルに連れていかれるが、辛くも脱出。マルセイユに戻ると密告者を始末する。
ジェルビエは、ボスのリュック(ポール・ムーリス)と共に潜水艦で英国へ。リュックはドゴールから叙勲される。が、仲間のルペルクが逮捕されるとジェルビエはフランスへ。ジェルビエとマチルド(シモーネ・シニョレ)は、ルペルクを助けるためにある計画を企むのだが。映画は淡々と描かれており、ハリウッド映画の様にヒロイックな描写はなく、彼らを待ち受ける沈痛な悲劇のラストが…
私が色々と書くより、一番良いのはメルヴィルとフランス人の映画評論家ルイ・ノゲイラとこの作品について対談を読んでもらった方が良いのですが、なかなか手に入らないと思いますので簡単に要約します。
冒頭のシャンゼリゼ行進シーンの撮影秘話、射撃所でのドイツ軍親衛隊軍服について、彼らは収容所師団に所属していた、ドゴール派の映画を撮ったということで非難されたこと、リュックが使用していた木製の檻のような物について、当時石炭が不足していてとても寒かったので必需品だったこと、映画に登場するリュック・ジャルディが書いた本は、哲学と上級数学の教授カヴァイエスのもので後にドイツ軍に処刑された、原作者ケッセルはこの映画を見てむさび泣いたこと、戦争の実体験として1944年8月19日トゥーロンの周辺で投降して来たドイツ軍兵士5名を連合軍の小型戦車がひき殺したことを目の前で見た事等。
個人的な意見として、メルヴィル自身自由フランス軍兵士として参戦しているので色々な経験、出来事が画面に溢れんばかりに詰まっているものでしょう。独特な渋い画調の映画ですが、それらが溢れんばかりに観客に訴えかけてきます。
このブログ作成にBD版を鑑賞しています。 八点鍾
追記 現在の観客が鑑賞すると一部のチープなシーン、特にロンドン、パラシュートシーンは物足りないかもしれません。
www.youtube.com 有名な冒頭のシーン