レタントンローヤル館(八重垣)にお出で頂き有難うございます。今日ご紹介する映画は「トム・ジョーンズの華麗なる冒険」(1963)です。
監督がトニー・リチャードソン、英国フリーシネマ運動の旗手と言った方が通りが良いと思います。同じような監督にカレル・ライス(土曜の夜と日曜の朝)、リンゼイ・アンダーソン(孤独の報酬)達がいました。同じような運動は、フランスでも起こっており、それはヌーベルヴァーグと呼ばれていました。日本でもありましたが。
リチャードソン監督は「怒りを込めて振り返れ」「長距離ランナーの孤独」「蜜の味」で力量を上げて、暗く重いそしてシニカル、体制批判、アンチ・エスタブリッシュメントというのが彼のスタイルでした。
この作品は、彼のそういう特色が抜けた作品で、ヘンリー・フィールディングの小説「トム・ジョウンズ(捨て子のトム・ジョウンズの物語)」を映画化したものです。カテゴリーとしてピカレスクロマン小説とも呼ばれます。似たような作品は、巨匠キューブリックの名作「バリー・リンドン」があります。この作品は物凄い緻密な時代考証が有名ですが、対してこちらは濃艶喜劇風な仕立てになっており、大変面白い作品です。
映画は、冒頭サイレント映画スタイルで、ロンドンから帰った大地主オールワージが自分のベッドに男の捨て子を発見し、ある使用人の私生児らしいので、その使用人に暇を出して、その捨て子をトム・ジョーンズ(アルバート・フィニー)と名付けて面倒を見ることにした。
時は過ぎて、トムはなかなかのハンサムで、又やんちゃな青年になった。が、女性に対してはだらしなく、トムは二人の家庭教師から女遊びの乱行ある事ない事告げ口されて、オールワージから勘当されてしまった。仕方なくトムはロンドンへ。トムを恋い慕う隣の地主の娘ソフィー(スザンナ・ヨーク)は、それを聞いて家出して、トムを追い駆けてロンドンへ。が、些細なことから決闘で相手を殺して、死刑台に送られてしまう。
トムは、死刑台を逃れることは出来るのだろうか…
但し、今回改めて鑑賞して気付いた点について記します。約2時間強の大作です。前半1時間が田舎での義理の父オールワージ、ソフイーとの逢引き、家庭教師の悪さ、貴族の鹿狩りで埋め尽くされます。この部分が退屈でした。ソフィーを演じるスザンナ・ヨークの可憐なこと、本当に美しいと。
問題は、私が所有しているDVDがあまりよくなくて、全体に暗く、細かいところが少し潰れている様な画像です。もっと良い画像で鑑賞すれば印象は良くなると思います。
トムがロンドンに向かう辺りから、映画は俄然テンポが良くなり面白くなります。ウォーター夫人と一緒に夕食を取る辺り、もう最高ですし、ロンドンの貧民窟などもなかなかのものです。本当に良く出来た濃艶喜劇且つ歴史映画です。そりゃ「バリー・リンドン」には敵いませんが、お話はこちら方が面白いと思いますが。
いずれにしても、リチャードソン監督はこの作品でアカデミー作品賞、監督賞、脚色賞(ジョン・オズボーン)、作曲賞(ジョン・アディソン)を受賞します。時の人になって「ラブドワン」「マドモアゼル」「ジブラルタルの追想」「遥かなる戦場」「悪魔のような恋人」「太陽の果てに青春を」「大本命」「ボーダー」「ホテル・ニューハンプシャー」等を取りますが、何れも良く出来ていますが、この作品ほどの成功を収めることはなかったと思います。
というより、ハリウッドで映画を製作し始めると、色々な問題が絡んで自分の求めている作品が出来なくなるのではないのでしょうか?
個人的には、これらの作品の中ではクリミア戦争を描いた大作「遥かなる戦場」が私は好きですが。この作品、黒澤明監督「影武者」に少し似ているんですよ。
このブログ作成にDVD版を鑑賞しています。 八点鍾
追記 そうそうフリーシネマ運動は、メンバーが巨匠になるにつれて初期の目的を失いバラバラに。カレル・ライスとリンゼー・アンダーソンは、地味な映画を作り続けていましたが。ヌーべルヴァーグもそうでしたが。